要望と条件を読み解く
ONE HOUSE
札幌市東区・Sさん宅
間口9m奥行27mの細長い敷地に「バリアフリーの家をつくってほしい」と、依頼を受けた。クライアントはご夫婦2人で、要望は足が不自由な奥さんに合わせた機能的な配慮と、だからといってそれらが全面的に現れるようなデザインにはならないようにすること、そして何より「楽しい家」だった。
単純に考えると、幅が狭く奥行きのある土地では、歩く距離が長くなり不利になる。しかし、普段は手すりなどでの歩行移動が主ということなので、スムーズな動線でありながらも、歩くことが苦にならない空間づくりができれば、それが楽しさにつながるのではと考えた。
機能面では、車椅子も含めた動線を留意し、廊下も排している。例えば、車から降りてすぐ室内に入れるようにアプローチを兼ねたカーポートから、木製の玄関引戸を開けて家の中に入る。キッチンから洗濯コーナーと家事動線がつながり、衣類を収納・脱ぎ着できるようにクローゼットまたは洗面脱衣室が隣接する。浴槽まで座って移動できるように、脱衣室からつなげてベンチを作った。また、動きのシミュレーションも都度確認しながら、スペース配分や高さ・幅などの寸法も調整している。
さらに、この家の最大のポイントは、内外が一体になるテラスである。リビングの窓を開けると、奥行約5.5mのテラスから庭へと続き、家にいながらも外へ外へと意識を開放してくれる。外の気配という安心感だけでなく、気軽に出入りができる身近な空間である。しかも家事動線上に洗濯コーナーもあるので、陽当たりも良く日々の家事が気持ちよく行える。
他にも、キッチン・ダイニングにはハイサイドを設けて明るく料理を楽しんだり、気軽に腰掛けられる小上がりスペースや、天窓のある浴室、本棚に囲まれた図書コーナーがある。これらはクライアントとの会話から生まれた有意義なプランだが、住み手の中に介在している生活環境をすべて読み込むことができたかは分からない。でも、安心感とわくわく感が同居する、空気がゆったりと流れるようなこの空間こそが、この家の住人のためのものになったはずだ。
「バリアフリー住宅」という特別な方程式を解くのではなく、求めている機能や住まいに対する夢や望みを、会話を通して読み解いていくのだと、私たちは改めて考えさせられた。(文/湊谷 みち代)
外観。アプローチを兼ねたカーポートの奥には日用品や食料品をストックする倉庫と玄関。回遊できる動線で機能的
白木を使った、明るくナチュラルなダイニング・キッチン。キッチン前の棚にはこの家の名前、「ONE」の文字が
玄関を入ると、キッチン、洗濯コーナー、寝室、図書コーナーと、家の奥まで一直線に部屋が連続する
キッチン上部は吹き抜けとし、ハイサイドライトから光が射す。奥に見えるのは、ポリカーボネイトをはめた玄関引き戸
洗濯コーナーから見る。左にユーティリティ、奥には寝室。寝室の向こうは本棚で仕切られた図書コーナー
家の内部空間と同じくらいの広さがある、ゆったりとした庭。時にはテラスで、時にはベンチで、もちろん家の中にいてもくつろげる憩いの場
テラスからリビング方向。普段リビングと一体の小上がりスペースは、引き戸で仕切ることも可能
リビングとテラスの間は全面が窓。小上がりに腰掛けると、自然と視線が外へ誘導される
動きにあわせて造作したベンチに座りながら、脱衣ペースから浴槽まで、ラクに、そして安全に移動できる
所在地/札幌市東区
家族構成/夫婦30代
構造/木造・平屋建て
敷地面積/247.94㎡(約75坪)
延床面積/112.22㎡(約33坪)
工事期間/平成21年6月~9月(約4ヵ月)