Kitchen house
この家のクライアントの奥さんは、実は私の幼なじみです。
小さい頃良く彼女のお家に遊びに行きました。
お母さんの丹精こめた素晴らしいお庭や、センスの良い和骨董が飾られていたりして、普通の家に育った私は彼女の家に遊びにいくのがとても楽しかった。
そんな彼女からお家がほしいと私達に相談がありました。
「好きな物に囲まれて生活する家がほしいのだけどどうすればいいの?」
この言葉からは分かりづらいかもしれませんが、大人になるにつれて趣味も増えて好きな物がたくさん手に入るようになったのに、飾る場所がない。
空間が楽しくない。お庭がない。。
かなり切実な想いだったと思います。
元々絵を描いたり好きな物をスクラップしたりするのが好きだったので、イメージの写真やスケッチで詰め込まれた分厚いお手製のファイルを見せてくれました。
極めつけは、中札内村の美術館に一緒に行ったときのこと。
「こんな風景が家の中から見たいの。」と大きなガラスの開口部から見える柏林を指差しました。
まるで絵のように切り取られた美しさとはこのことでとても衝撃的でした。
この場所に気づいた彼女も素晴らしいし、この感覚を一緒に持ちながら家を作る喜びを感じました。
そして、この印象をずっと持ち続けてこの家が出来上がりました。
もちろん、この景色を見ながら楽しそうに生活している夫婦がいることをイメージしながら。
「キッチンハウス」は、こんな風にクライアントとイメージを共有しながら家を作るきっかけとなった大切な作品です。
湊谷みち代
全ての写真が酒井広司さんによるものです。
「緑を見ながら暮らしたい」という建主の願いがかない、札幌市厚別区にある約 8.4 haの青葉緑地に隣接する場所に、この住宅は建てられた。
閑静な住宅街の一画にあるこの土地は、南西側だけが自然豊かな緑地に面している。山桜・姫リンゴ・ナナカマド・柳・白樺など四季折々に変化する木々を眺め、傾斜面のふもとを流れる沢の音を聞くことが出来る恵まれた土地に、常に意識や視線が自然に緑地に向かえるような空間になることをイメージした。
また、毎日の生活を楽しむ要素の一つとして、「料理を作り食べること」を大切にしている事から、緑地を望む特等席になるようダイニングとキッチンをこの家の中心に配置することを考えた。
平面計画は、ダイニング・キッチン・寝室・ロフト感覚のフリースペースなど、生活の中心となる諸室を2層吹抜の大きな空間に構成し、北側には浴室・トイレ・クローゼットなど機能的にひとまとめとなる空間をつなげ、南側にはリビングと玄関を配置した、東西に細長い三つの箱を並列している。
北東道路側にある住宅街は、ハイサイドや小さい出窓からの気配を感じるだけで、緑地側に設けた大きな開口部は、奥まった場所にあるスキップフロアの寝室やクローゼットまで、自然を意識できるようになっている。
「コンパクトでワンルーム的な家にすること、趣味で集めている和骨董を置くこと、木を使うこと、風通しの良いこと、気持ちの良い場所で本を読むことなどなど」、生活に望む建主夫婦の言葉は、自然の中で気持ち良く生活するための問いかけであり、自分自身が、「住まい」というナチュラルな器を、あらためて考えるきっかけになったと感じている。
文:湊谷みち代